ちーちゃんちのワードローブには、ナースとかスチュワーデス風とかスーツとかメイドとかチャイナとかあるけれど、アニメ系のコスプレ衣装はないっていうお話。
時間軸的にはまだ書いてないけれど、5話~6話の間くらい。まだ付き合ってない。
お前一体何着持ってんの、女装衣装。
神崎に聞かれて、ひとつふたつ、と指折り数えるよりも実際見てもらった方が速いや、ということに気がついて、クローゼットを開けた。一人暮らしには贅沢な収納設備は、もともとこのアパート……いいや、マンションか。ここがファミリー向けに作られているからだ。
女装しながら自慰に耽っているのを神崎に見られたのが四月。そのときに着ていたセーラー服を、神崎は複雑そうな面持ちで見ていた。いや、複雑な顔をしたいのはこっちなのだけれど。女装オナニーだけじゃなくて、最近妙な感じになってるのは、決して俺のせいじゃない、と思う。手を出してきたのは神崎の方だ。フェラさせられたり、素股させられたりと、それからの俺の性生活は一変してしまった。彼女もいたことがない、彼氏なんてもってのほかだった俺は何もかもが初めてで、無駄に理系の探究心を発揮してどうしたらもっと早く彼を射精に導くことができるのか、日々考えている自分が怖い。
「結構持ってるのな……」
「う、うん。一人暮らし始めてから、つい……」
成長期を迎えてこんなに背が伸びてしまってからはご無沙汰だった。インターネットを見ると女装趣味のごつい男はたくさんいるらしくて、割と簡単に衣装は入手することができると知って、タガが外れた。この部屋に家族が来ることはおそらくないし、友人たちが来ても、俺ではなくてだいたい酒かアダルトビデオに夢中だから、ばれることはないと思っていた。
「そういえばさ、これだけ衣装あるのに、意外とアニメの女の子のコスプレ衣装とかないよな、お前」
一番入手しやすそうなのに、という神崎に対して、「ああ……」と俺は記憶を掘り起こす。そう、確かにアニメ関連のショップや公式で、可愛い女の子しか出てこないアニメのコスプレ衣装が男性向けXXLサイズまで用意されているから、手を出そうとしたこともある。値段も塾講師のアルバイト1日半くらいで買えるお手頃価格だったし。でもなぜ買わなかったかといえば。
「結構前に飲み会の場所提供したときに、小澤が言ってたから」
「敏之? なんて?」
小澤は神崎の親友ともいえる男で、神崎を通して俺も最近は仲がいい、と思う。
「キャラのことを何も知らずにするコスプレなんて言語道断! 愛がない! キャラへの愛がなければコスプレはしてはならない! って」
あれで結構アニメオタクなところがあるらしくて、酒に酔った勢いでか、そんな熱弁をふるっていた。それもそうか、と納得してアニメコスプレ衣装には手を出さなかった。
「ああ、あいつそういうところあるよな……コスプレはセックスするためにあるんじゃない! って感じで」
「うん、そう」
そのセックス目当て――そのときは誰に見せるわけでもなく、ソロプレイだからより悪いかもしれない――で女装をしている俺は、小澤曰くのキャラへの冒涜をしてしまうことになる。
「でも面白いことに、彼がこの家に置いていくAVって、アニメキャラのコスプレした女の子がひどい目に遭う奴なんだよねえ……」
業が深いねぇ、と言うと神崎も呆れた顔で、「まったくだな……」と言った。
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